今日は天気がいいから夜空を見に、庭へでた。
雑草が生い茂っているけれど、空を照らす星を見るのに邪魔にはならない。
一人じゃ危ないっていうので、アリスが一緒に来てくれたけど、並んで座った瞬間軽くでこぴんされた。

「いたっ!」

「つーか、

「な、なにー?」

「部屋戻ったら、寝ろよ」

「は?」

突然でこぴんされた上、次には寝ろって…どういうこと?
その疑問を口に出すよりも早く、顎を掴まれて顔を覗き込まれる。

「お前、それでも一応女だろ?女がそんな顔してんじゃねぇよ」

「…そんな顔って」

「帽子屋みてぇな顔?」

帽子屋さんみたいな顔、と言われ…目の下の濃いクマが頭に浮かぶ。
あんな風に…なってる、の…あたし。

「そ、そんな…」

「あーそうだ…あんなだ。いいか、。人間、ちゃーんと寝て、必要最小限の砂糖を摂取するだけでいいんだ。じゃないと、あんな人間としておかしなヤツになっちまうんだ」

「…ね、寝ないとなるの?」

「あーなるね、なるなる。もう指先ぐらい変わって来てるんじゃね!?」

「うっそーーー!?」

アリスの手から逃れ、視線を指の先へ向けた。
一見なんともないけど、もしかしたら少し黒くなって…たりするのかな。
不安でじぃ…と見つめていると、すぐ側から聞こえてきたイイ声。

「おやおや、アリスちゃんってば。女の子イジめるなんて珍しいね〜」

「イジめてねぇよ、助けてやってんだよ。帽子屋みたいに、クマが取れなくならねぇように」

「あぁ、それは大事だね」

「チェシャ猫さん」

「こんにちは、ちゃん………

「…?」

アリスとは違う細い指が、頬に触れ微かに上を向かされる。

「そろそろ寝ないと、アリスちゃんがいうみたいにクマで君の可愛い瞳が影になっちゃうよ…それじゃあ僕、寂しいなぁ」



――― くらくらして…背後にお花が咲いて見えます



「チェシャ猫……お前、相変わらず口が上手いな」

「処世術、って言って欲しいな。僕、こうやって毎晩寝る場所確保してるんだからさ」

「って、お前!まさかこいつのとこに泊まる気か!?」

「えーそんなことはしないよ。だって彼女、帽子屋さんのお店にいるんでしょう?僕、店に入ったら"殺すぞ"って言われてるからさ」

「あー…でも、別の意味で死ぬかもな。あの店、埃だらけで今にもアレルギーになりそうだ」

「くしゃみ…止まらなかったもの…この間」

「帽子屋さん、掃除しないからね」

「うん、しない」

「しねぇな」

全員がこくこく…と頷いていると、ばんっっ!と勢い良くお店の扉が開いた。

「てめぇら!お茶の時間だってのに、ぐだぐだ店の前で喋ってんじゃねぇ!!ぶっ殺すぞ!!」

「おやおや、じゃあまたね、アリスちゃん、ちゃん。僕は今日泊めてくれる人を探さないといけないから、さ」

「あっ、てめっ!逃げるなー!!」

「またね〜チェシャ猫さん」

ひらひらと手を振っていたら、背後から銃を取り出す音が聞こえた。
一瞬、自分の方に向けられたかと思ったけれど…それはあたしではなく、アリスに向けられていた。

「相変わらず、人に銃を向けるのが得意だな…アンタ」

「おい、チェシャ猫なんか家に入れたら…猫ご銃でぶち抜くぞ」

「うっせぇな、んなことしねぇよ。つーか、もうアイツいねぇし」

「そーか、なら平和なお茶の時間が取り戻せたな」



平和なお茶の時間…なんて、今まであっただろうか。
いや、ない………と、思う。




「ふわぁ…アホらし…もう寝ようぜ、。今日はお前が枕な」

「えーまたぁ?」

「お前、抱き心地いいんだからしかたねぇだろ。つーか、お前、いい加減俺の首絞めるのやめろ」

ベッドが狭いから、自然とアリスにしがみつく形になる。
そうすると、朝目覚めると確実にアリスの首に手が回っていて…それに、ちょっと力が入るだけ。
決してわざとではない…ハズ。

「絞めてるつもりないよ。ただ、こー…抱っこしてたら自然と絞めてるだけ?」

「はい、お前。今から永久抱き枕決定!」

「うっそー!?ずるいよ、アリス」

「お前の意見は却下…っつーか、女だってんなら素直に俺に抱かれとけ」

「え〜〜〜」

「…おい、待て」

不意に帽子屋さんに肩を掴まれ、振り返る。

「はい?なに、帽子屋さん」

「おまえら、一緒に寝てるのか」

「あー、なにスケベなこと考えてるんだよ。これだから、大人っつーか、ロリコン中年男の独り者ってのは嫌だよな」

「誰がロリコン糖尿病患者だ!」

「…誰もそこまで言ってねぇよ」

「それで、実際どうなんだ、

肩を掴まれてがくがく揺さぶられながら、アリスと共にいる理由を説明する。

「あの、ただ掃除してある部屋がアリスの部屋しかなくて。必然的にそこで一緒に寝てるだけ、ね、アリス」

「そーいうこと。悔しかったらあんたも部屋掃除して、こいつが入れるよーなキレーな部屋にしてみやがれ!この、万年床に住む、万年茶飲み男!」



チックタックチックタック…
帽子屋さんが天を仰ぐこと数秒。

チーン…という見えない音と共に、言葉を発した。




「……よーし、わかった。今から掃除するぞ」

「はぁ?アンタ、何考えてんだ!?今は夜だぞ、夜!あの空を見ろ!星々を見ろ!って毎回言わせるな!」

!お前はアリスのとこで寝ろ。で、俺の部屋の掃除が終わったらこっちに来い!」

「…えー」

「えーじゃねぇ!いいから来い!」

「は〜い…じゃあアリス、ごめんねーベッド借りるー」

「っつーか、マジかよ!?お前、ひとりだけ寝るつもりか!?」

「だってー、あたし寝ないと…この話終わらないし」

「話も何も、文章になってねぇだろ!」

「そうだな…掃除の休憩には…ダージリンがいいな」

「アンタも、掃除の前に休憩のお茶を考えるなーーーーっ!!」





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日記で書いた小話を手直しして、再録してみました。
Are you Alice?の小話は、思いつけばノリと勢いでいけるので書いていて楽しいです。
本当は帽子屋さんの家に住むまでの話ってのも、ちゃんと連載で書いてるんですよ?
…えーと、15話くらいまで?(苦笑)
でもそこから上手く帽子屋さんの家の中に入り込めなくて頑張ってます。
それにしても、帽子屋さんのお店はどれだけ埃が溜まっているのか謎です。